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さしあたって ただの日記 \(●×●)\

飲食物摂取制限 (09-03-03-06)

飲食物摂取制限 (09-03-03-06)

<概要>
 原子力施設において、大量の放射性物質の放出を伴うような事故が発生し、敷地外の一般公衆が過度の被ばくを生ずる恐れのある場合は、実行可能な限り、被ばく低減のための対策をとることが必要となる。原子力安全委員会から目安として放射性ヨウ素、放射性セシウム、プルトニウムなどについての飲食物摂取制限に関する指標値が出されている。 <更新年月>
2010年12月   
<本文>
1.はじめに
 原子力施設が大量の放射性物質の放出を伴うような事故を発生した場合において、汚染された飲食物を摂取するまでには時間がかかり、通常、経口摂取による内部被ばくの対策までに時間的余裕があると考えられるので、緊急時モニタリングの結果を参照して、飲食物の摂取制限を決定する。なお、摂取制限措置を実施する際には、代替飲食物の供給等について対策を講じておく必要がある。
 具体的には、スリーマイル島原子力発電所(1979年3月28日)やチェルノブイリ原子力発電所原子炉事故(1986年4月26日)のように、原子力施設において、大量の放射性物質の放出を伴うような事故が発生し、敷地外の一般公衆が、過度の被ばくを生ずる恐れのある場合は、実行可能な限り、被ばく低減のための対策をとることが必要となる。その判断の基礎となる線量を介入レベルといい、その介入レベルを超えないように環境汚染物質や汚染食品の摂取、流通を制限するため、二次的に設定される制限レベルを誘導介入レベルと呼ぶ。ここでは飲食物に対する誘導介入レベルを中心に述べる。
2.誘導介入レベル
 介入レベルと誘導介入レベルとの関係は、飲食物を例にとれば、次のようになる。飲食物に関する誘導介入レベルとは、飲食物中の放射性核種濃度について指標となるレベルであって、この濃度の飲食物を日常的に摂取し続けると、受ける線量が介入線量レベルに達するものをいう。
 基本的には介入レベルが与えられれば、それを主要食品群に割りふればよいが、現実問題として、いくつか考慮しなければならない事項がある。
2.1 核種の選定:
 事故の規模や対象となる施設によって異なるし、事故の経過によっても異なるが、量の多少にかかわらず、放出される恐れのあるすべての核種を選定することは実用的でない。チェルノブイリ原子炉事故後、ヨーロッパ各国及び国際機関が対象核種として取り上げているのは、ヨウ素(131I~135I)、セシウム(134Cs ~137Cs)、ストロンチウム(89Sr、90Sr)、ルテニウム(103Ru、106Ru)、プルトニウム(239Pu~241Pu)、アメリシウム(241Am)である。事故による核種の放出量、食品となる生物(農作物、畜産物、水産物)による濃縮係数や移行係数並びに人体に与える影響などを総合的に考慮すれば、131I、137Cs及び90Srなどの核種が重要な核種である。
2.2 飲食物の種類とその摂取量:
 日本人は、集団平均として食品の1人1日当りの摂取量は比較的一定している(飲料水として摂取する分を除けば、1人1日当り約1.4~1.6kg)。しかし、その内容についてみると、季節変動、地域変動が大きい。介入レベルを代表的な食品に割り当てるとしても、その食品の種類や消費量が季節により、地域により異なるとすれば、誘導介入レベルを設定することは容易でない。理想的には問題となる地域住民の季節別の消費実態を把握しておき、それに従って誘導介入レベルを設定すべきであるが、複雑に過ぎ、実用的でない。実際上は食品を3~5群に大まかに分類し、群別の誘導介入レベルを設定する方が適当である。
2.3 年令に関する考慮:
 一般公衆の中には、新生児から老人までのあらゆる年令層が包含されている。年令により、身体的、解剖学的標準値が異なるほか、核種の代謝や食品摂取の実態も異なる。国によっては、誘導介入レベルに年令別の補正を試みている。一般公衆を守る立場からは、年令別の線量換算係数の設定が強く望まれるところである。
2.4 諸外国の例:
 1987年11月、オーストリアにおいて開催された「食物連鎖中の放射性核種に関する国際会議」で報告された国連世界保健機構(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)の誘導介入レベルの数値を表1に、放射能対策レベルの数値を表2に示す。WHOは、事故発生場所から100km以上離れた地域に一般的に適用する目的で研究を進めている。そのため、標準的な食物摂取量(550kg/年)を想定し、また、核種も単純にアクチニドとその他の核種の2つに分類して、誘導介入レベルの設定を試みている。FAOは、レベルを設定するための線量として、
 初 年 度:実効線量   5mSv/年
        等価線量   50mSv/年
 2年目以降:実効線量   1mSv/年
        等価線量   10mSv/年
を設けている。
2.5 わが国における飲食物の摂取制限に関する指標:
 飲食物摂取制限に関する放射性物質として、放射性プルームに起因するヨウ素、ウラン及びプルトニウムを選定するとともに、旧ソ連チェルノブイリ事故時の経験を踏まえてセシウムを選定した。そして、これらの核種による周辺住民の被ばくを低減する観点から実測による放射性物質の濃度として表3のとおり飲食物摂取制限に関する指標が原子力安全委員会から出されている。
 この指標は、災害対策本部等が飲食物の摂取制限措置を講ずることが適切であるか否かの検討を開始する目安を示すものである。
1)放射性ヨウ素について
 ICRP publication 63 等の国際的動向を踏まえ、甲状腺(等価)線量50mSv/年を基礎として、飲料水、牛乳・乳製品及び野菜類(根菜、芋類を除く)の3つの食品カテゴリーについて指標を策定した。なお、3つの食品カテゴリー以外の穀類、肉類等を除いたのは、放射性ヨウ素は半減期が短く、これらの食品においては、食品中への蓄積や人体への移行の程度が小さいからである。
 3つの食品カテゴリーに関する摂取制限指標を算定するに当たっては、まず、3つの食品カテゴリー以外の食品の摂取を考慮して、50mSv/年の2/3を基準とし、これを3つの食品カテゴリーに均等に1/3ずつ割り当てた。次に我が国における食品の摂取量を考慮して、それぞれの甲状腺(等価)線量に相当する各食品カテゴリー毎の摂取制限指標(単位摂取量当たりの放射能)を算出した。
2)放射性セシウムについて
 放射性セシウム及びストロンチウムについても飲食物摂取制限の指標導入の必要性が認識されたことを踏まえ、全食品を飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の5つのカテゴリーに分けて指標を算定した。
 指標を算定するに当たっては、セシウムの環境への放出には89Sr及び90Sr(137Csと90Srの放射能比を0.1と仮定)が伴うことから、これら放射性セシウム及びストロンチウムからの寄与の合計の線量をもとに算定するが、指標値としては放射能分析の迅速性の観点から134Cs及び137Csの合計放射能値を用いた。
 具体的には、実効線量5mSv/年を各食品カテゴリーに均等に1/5ずつ割り当て、さらにわが国におけるこれら食品の摂取量及び放射性セシウム及びストロンチウムの寄与を考慮して、各食品カテゴリー毎に134Cs及び137Csについての摂取制限指標を算出した。
3)ウラン元素について
 核燃料施設の防災対策をより実効性あるものとするため、ウランについて我が国の食生活等を考慮して指標を定めるとの方針のもとに、実効線量5mSv/年を基礎に、全食品を飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の5つのカテゴリーに分けて指標を算定した。
 指標を算定するに当たっては、5%濃縮度の235Uが全食品に含まれ、これが5mSv/年に相当すると仮定し、さらにわが国における食品の摂取量を考慮して各食品カテゴリー毎に飲食物摂取制限に関する指標を算出した。
4)プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種について
 再処理施設の防災対策をより実効性のあるものにするため、IAEAの「電離放射線に対する防護及び放射線源の安全に関する国際基本」(BSS)に記載されているアルファ核種(アメリシウム、プルトニウム等)について我が国の食生活等を考慮して指標を定める、との方針のもとに、実効線量5mSv/年を基礎に、全食品を飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の5つのカテゴリーに分けて指標を算定した。
 指標を算定するに当たっては、多種類のアルファ核種が共存して放出される可能性があるので、核種ごとに指標を作成することはせず、アルファ核種が全食品に含まれ、これが5mSv/年に相当すると仮定し、さらにわが国における食品の摂取量を考慮して、各食品カテゴリー毎に飲食物摂取制限に関する指標を算出した。
(前回作成:2001年2月)


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